7それから一週間ほど、俺は悶々としながら過ごした。例のリモコンは引き出しの一番奥に仕舞ってある。 あの時の隼人さんの恋人っぽい態度とキスを何度も何度も反芻してしまうのに、その次には俺の告白をあっさり受け流したことも思い出してしまう。俺はひとりで何度も浮き沈みして、正直自分で自分に疲れきっていた。 いっそ隼人さんが俺に向かってあのリモコンの友達ってコマンドを連打してくれたらいいのに。そうしたらこの堂々巡りから抜け出せる気がする。 でも現実的に考えてそんなこと頼めるはずもなくて、俺は重いため息を吐き出した。学食のうどんの量はいつも通りなのに、やたら多く感じるのは食欲がないからだろう。 「どうしたんだよ響、お前今週ずっとテンション低いじゃん。振られた?」 「振られてねーよ」 大輔が何の気なしに核心をついてきて、それにぐっさり抉られた。否定したけど実質振られたようなもんだよな、これ。 内心で怒りを噛み殺しつつ手で払う仕草をすると、さすがに自分がまずいことを言ったと察したのか、大輔が苦笑した。 「何があったか知んねーけど、元気出せよ。なっ」 大輔。お前のその、妙に察しがよくて空気読めるとこまじ好き。言わないけど。 「あ、そうだ!」 ふと思いついたように大輔がこっちに身を乗り出してきた。 「気晴らししようぜ! 俺今夜合コン行くんだけど、まだ一人分くらいならねじ込めるし、響も来いよ」 「俺?」 合コンなんていつも断っているから、最近は誘われなくなっていた。だけどわざわざ誘うのは、やっぱり落ち込んでいるのが気になるからだろうか。 俺は普段断っているように拒否しようかと口を開きかけ、それからちょっと黙った。俺は隼人さんが好きだから女の子には欠片も興味はないけど、大輔がせっかく気遣ってくれてるんだし、たまには参加してもいいかもしれない。 「……行く」 「よっしゃ! ユカちゃんがお前が来るならっつっててさあ、普段誘っても来ないからどうしよっかなーって思ってたんだよー」 そういうことかよ! 俺は大輔への感謝の気持ちを最高速度で撤回した。面と向かってお礼とか言わなくて良かった。こんな奴に感謝すること自体間違ってる。 そんな訳で俺は居酒屋で合コンに参加させられていた。男女それぞれ六人ずつ、まあ配分としてはいい方だろう。 女子の狙いは多分この中で一番イケメンの奴で、数人がきゃいきゃい言いながら話しかけている。で、イケメンの近くの大輔あたりが奴をネタにしながら笑いを取ったりなんかしていて、合コンはそこそこ盛り上がっていた。 端の方の席に座った俺は女の子と会話する努力すら放棄してビールばかり飲んでいる。だって俺、隼人さんしか考えらんないし。一応女の子と付き合ったことはあるけど、一回セックスしたらこれは違うって決定的に思い知らされて終わったし。 「崎山(さきやま)くんも話そうよー」 女の子の一人に話しかけられて、俺はぼんやりと壁を眺めていた視線を戻した。 「なに」 「最近落ち込んでるって聞いたけど、せっかく来たんだから楽しも? ね?」 にっこり笑う子が誰なのか知らなくて、俺は困った顔で曖昧に笑った。誰これ。思っていると、女の子がちょっと頬を膨らませた。 「あ、わたしのこと知らないでしょー。そういう時は名前くらい訊いて欲しいなー」 「……名前、なんて言うの」 「ユカ」 名乗られて、ああこれが大輔が言っていたユカちゃんか、と気づいた。何かのクラスで見たことがある。 確かに大輔が気にするだけあって、わりと可愛い。髪もふわふわに巻いてあって、目がものすごくぱっちりしている。唇もピンクのグロスでつやつやしているのに、爪は綺麗に切り揃えられているのはちょっと好感が持てた。俺は長い爪の女の子は苦手だ。 俺は大輔のことを考えて、ユカという子との間に適度な距離を置くことにした。 「今ちょっと好きなひとと上手くいってなくてさ」 俺が好きなひとの話をすると、大概の女の子は引いていく。ものすごく愛しちゃってるのね。引き際のコメントまでみんな一緒だ。 「崎山くんの好きなひとって、どんなひと?」 「年上のひとなんだけど。大人で、優しくて、スタイルよくて、煙草と車と映画が大好きなひと」 だけどユカちゃんは引かなかった。俺の言葉を聞いてちょっと諦めたような顔をしたけど、すぐににっこり微笑む。 「すごい。かっこいいひとね。もしかして、だからちょっと不安になっちゃった感じ?」 「うん。そうなんだ」 するりと返答が口から出たのが照れくさくて、グラスのビールをぐっとあけた。ユカちゃんがすかさず瓶から注いでくれる。 「ね、もっと聞かせて」 俺はグラスになみなみと注がれたビールに口をつけながら頷いた。 |
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