3


 大変なものを手に入れてしまった。俺は大輔と解散して帰ってきた自分の部屋で途方に暮れた。まじどうしよう。
 あれから改めて確認してみたら、催眠コマンド3ってやつがヤバかった。性感帯リストみたいになってる。口、とかペニス、とかまではともかく、なんかもうあとは赤裸々な感じ。アナルって書いてあるのとかほんとどうしようかと。で、音量ボタンみたいなのを調整すると感度が変わるらしい。これってその、つまり、ある種のレイプとかに使うやつですかね。
 警察にも大学にも持って行きたくない。信じて貰えないならまだいいけど、何かの拍子に人間を操作できるものだって知られたら俺が誤解される。かといって持ち主がわかるはずもない。名前のわかりそうなことは一切書いてないし。
 もやもや考えてたらドアの外から母さんの声がした。思わずビクッとなった。
「響ー、ご飯よー」
「い、今行く」
 仕方ない。仕方ないよな。うん。
 俺はリモコンを着服することにして、ポケットに突っ込んだ。今度はきちんと電源を切ってる。だけど食事中もずっと例のリモコンのことが気になってたまらなかった。
 食事を済ませてから、テレビを見ようと誘ってくる弟には断りを入れて自室に籠もる。鍵をかけるのは忘れない。母さんがアイスをくれたからそれだけはちゃっかり受け取っておいた。ちょっとリモコンを試して、それから食べよう。
 リモコンを手に取って電源を入れる。
 どれにしよう。ペニスとかヤバそう。妥当な何か、そう、口とかいいかもしれない。普通だし。キスで普段より感じるとかそういうことだろ。
 口ってコマンドを合わせて、自分に向けて押してみた。音量ボタンの上限と下限がよくわかんないから適当にカチカチ上げる。カチカチ。
「んー……」
 すっかり調整ボタンを上げきってから気付いたけど、俺ってアホじゃないの。ひとりでキスとか出来ねえし。苦笑しながら、軽く、ほんとに何の気もなしに自分の口の中に指を突っ込んでみた。
 ほんとに何も考えてなかった。キスする相手もいないし、舌の代わりくらいにはなるかなっていう気持ちだった。
「んふっ、んんっ!」
 指が触れたところからびりびりと電流みたいなものが突き抜けた。ように感じた。
 驚いて口の中で指が滑る。指先がぬるりと舌の表面を撫でて、その途端にぞくぞくと背中が震えるような感覚が走った。
「ひうっ、ふ」
 快感? そうだ、これ、快感だ。
 わけがわからないほどの感覚に思わず指を口の中から抜いた。どっと溢れてきた唾液がつうっと唇から一筋こぼれて、それさえも奇妙なくらい感じる。
「は、あは……」
 じわじわと口の中が熱い。なんだこれ。なんだこれなんだこれ。
 俺は震える手でリモコンを取ろうとして、それからさっき部屋に持ち込んだアイスを思い出した。熱い。舌も、口の中も、喉の奥まで妙に熱くなってる。普段食べてるやっすいアイスキャンディが急に魅力的に見えて、俺はすぐ横に放り出していたそれの封を震えながら開いた。
「んあ、あ、ふ、んんうっ」
 気持ちいい。冷たくて甘いそれが口の中のどこに触れても気持ちよくて、俺は背筋を震わせながらアイスを舐めた。というか、正確にはアイスで口の中を擦っていた。
「ん、んっ、んっ」
 舌を絡め、上顎を擦り、喉の奥までアイスを押し込む。ぽたぽたと飲み込みきれなかった液体が唇から垂れる。じゅる、と溶けたアイスを啜るとそれだけで信じられないくらい気持ちよくて、腰のあたりがずんと重く痺れる。
「んうっ、あ、ふあ、は……っ」
 口からアイスを出して下から舐め上げる。手首を伝って滴りそうになったアイスを追って舌を這わせると、アイスのつるつるした感触とはまた違う、人間の肌の感触に種類の異なる痺れが舌先を震わせた。
 はあはあと息が荒い。熱っぽくぼうっとする頭は全然働かなくて、俺はふらふらとする視界で残り少なくなったアイスを見つめながらそれを口に入れて啜った。
「ん、んっ、んうーっ」
 思い切り深くまで口に押し込み、喉を締めるようにして啜った瞬間、腰に重く蟠っていたものが解放された。
「っは、はーっ、はーっ……」
 嘘だろ。
 俺はアイスを舐めただけでイッていた。


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