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 大輔はそのまま俺を引きずるようにしてゲーセンに連れて来ると、何でも好きなのやれよ、今日はおにーちゃんの奢りだからなって言い放った。お前それはいつも妹に言ってる台詞じゃねえか。ていうかマジなのか。
 さすがに何だか異常を感じた俺は大輔に奢らせたりはせず、次回奢ってくれとか何とか言って自腹を切った。だけどいつもはどっちを先にやるかなかなか決まらないゲームの選択では大輔があっさり俺に譲った。優しすぎて気持ち悪い。優しくされる理由が理解できないのが一番気持ち悪い。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるから。ここで待ってろよ」
「お、おう」
 いつもの大輔なら最後の一言は絶対言わない。やっぱり変だ。
 途方に暮れてポケットに手を突っ込むと、指先に何か当たった。さっきの、謎の音楽プレイヤーもどき。
「……あれ?」
 何の気なしにそれを手に取ると、コマンドがひとつ実行中になっていた。家族、というコマンド。
 家族。
 さっきの大輔の、家族だろ、という台詞が頭をよぎる。まさか。いやまさかそんな。
「ごめんな響、待たせた」
 トイレから戻ってきた大輔は相変わらず大輔らしくない。
「あ、あー……俺もトイレ」
 取り繕うように笑って言うと、なら一緒に来れば良かったのにって大輔が笑う。普段より優しさ五割増しなのがほんとこわい。俺はそそくさとトイレに向かった振りをして、ゲームの筐体が並んでいる後ろを一回りしてから大輔の後ろに回り込んだ。
 まさかとは思うけど、試して減るもんでもなし。やってみるしかない。
 何故か自分でもわからない冷や汗をかきながら、俺は音楽プレイヤーもどきを奴の背中に向けて、ボタンを押した。初期化、ってやつ。カチ、と手応えはあったけど、何も起こらない。
「ただいま」
「おせーよ。次あれやろうぜ、あれ」
 そう言って大輔が指差したのは、さっきまでこいつがやりたいなんておくびにも出さなかった、大輔本人が好きな方のゲーム。ゾンビ撃つやつ。俺あれ苦手なんだよね。
 やっと俺を優先しない普通の反応があったことに、俺は心底ほっとした。今ならゾンビ撃つのに付き合ってやってもいいくらい安心した。
 ということは、もしかして、ほんとに初期化したのか。
 俺の中で好奇心が渦を巻く。初期化できるなら、試してもいいよな。家族はもうやったから、今度は違うのを選んで恋人ってやつ。
 カチ。
「俺それよりお前んち行っていちゃいちゃしたいんだけど」
 ギリギリの線だけど、いつもならキモい冗談やめろよって笑い飛ばされるレベル。いつでも突っ込まれていいように半分笑いつつ言ってから顔を見たら、大輔が、あの大輔が、心底愛しそうな目で俺を見てた。ふ、と微笑む。
「俺もだよ、響。俺んち行こうか」
 うわ鳥肌立った。
 ちょっと待って、とか何とか言いながら慌てて初期化コマンドを選んで押すと、大輔がさっき自分が何を言ったかすっかり忘れて「何で帰んなきゃいけねえんだよほらゾンビ撃つぞ」って言い出した。
 ヤバい。本物だ。何のために誰が作ったかわからないけど、これ本物だ。本物の、なんて呼んだらいいんだ……えーと、催眠コマンドリモコンだ。これ大学の事務局に届けたら俺が変質者扱いされるから無理だよな。どうしようこれ。
 それから俺はホラー苦手なのに罪滅ぼしのために大輔に付き合ってほぼ半泣きでゾンビを撃った。多分一体くらいは倒した。はず。


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