6今までは環が俺に色々訊いてきていたけど、最近は俺の方から環について訊くようになった。休みとか何してんの。寝るか、雑誌読んでるかしてる。どんな雑誌。ファッション。好きなの。アクセとかは、まあ。いつもアクセ違うよね。かなり持ってるからな。そんな風に、ババ抜きなんかしながら話す。自分でもちょっとしつこいかなと思うくらい色々訊いてるのに、環は嫌がったりしない。淡々とこたえて、それから時々お前は? と問い返してくる。 何故だろう。環の情報は沢山教えて貰っているのに、肝心なことだけはまだ知らないような気持ちがずっとしている。それで俺は内心むきになってまた環にどんどん質問する。環は淡々とこたえる。その繰り返し。 「指輪何個くらい持ってるの」 「二十ちょい」 「多くない?」 「まだ足りない」 「ふうん」 「お前は」 「ひとつもないけど」 普通は指輪とかするんだろうか。環が両手の指に全部で三つしているのは、似合っているから何の違和感もないけど。普通の高校で、昼間行われる授業を受けている奴らは指輪とかネックレスとかするんだろうか。陽の光に照らされたそれらをきらきら光らせるのか。 昼間の環は、きっときらきらしてるはずだ。 「しねえの」 黙って首を振る。胸が苦しい。別に、昼間絶対に外出できないわけじゃない。だけど、俺にとってはもう意味がない。帽子にサングラスにマスクに長袖、遮光カーテンを二重にして窓にUVカットフィルムを貼って。そうでもしないと昼間活動できない。俺が半袖で走り回ることは二度とない。 環は気づいていないだろうか。どんな質問でもしてきた俺が、スポーツの話にだけは絶対触れてないってこと。気づかないよな普通。大丈夫。大丈夫だ。 黙って俺を見ていた環が、指輪をひとつ外して俺の右手を取った。初めて触れる手は暖かく、厚く、かさついていた。 「目印にしろよ。お前特に黒いから」 確かに髪も目も真っ黒いけど。目印? 環が中指の関節で引っかかった指輪を一旦抜いて、薬指にはめ直す。俺の右の薬指に指輪が収まった。ぴったりだけど、位置がおかしいだろ。 「何の」 落ち込んでたのと嬉しいのと照れくさいので混乱する。思わず仏頂面で言うと、環がちょっとびっくりするくらい穏やかな顔で微笑んだ。 「夜は目印が必要なんだよ。だから俺もたくさん目印をつけてる」 「目立ちすぎじゃないの」 「まだ足りない。ちゃんと見つかるようにしねえと」 今夜の環は饒舌だ。俺の状態を察してだろうか。そうだといい。環が最近新田も加藤も連れて来ないのは、俺とだけゆっくり話したいからだって思い込みたい。環にとって俺は仲間の誘いを蹴ってでも会う価値があるんだって勘違いしておきたい。 知らないだろうな、環。俺、お前のお陰で夜が少し楽しみになってきたんだ。 「ほら、環の番」 「ん」 中断していたババ抜きを続ける。広げたカードを差し出す時、右手につけた指輪がちらりと光った。そっか。目印だもんな。 俺のカードから一枚引く環の指にも指輪。複雑な形をしているそれが、やっぱり手を動かす時にすこし光る。俺の負け。予定調和だ。 「そりゃ環のサイズだけどさ。だからって薬指?」 「気に入らねえならサイズ直しに出せ」 直さないよ。このままにしとくよ。環から貰ったものを、少しでも歪ませたくない。 カードを集めて切り始める姿を横目に、右手の指輪をまじまじ眺める。一見シンプルなんだけど細かい模様が入ってる。何となしに指から少し抜くと、裏側に文字が入っていた。筆記体だからちょっと読みづらい。 「これ何て書いてあるの」 「『愛は真実を憎む』」 俺にぴったりだ。ゆるく微笑む俺を、環がじっと見つめていた。 |
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