ベンチの後ろを目撃
前編


 初等部の頃から高等部三年に至るまで皆勤だった学年主席が、昼から授業に出ていない。そう言われたのは、俺が信じがたいことに風紀委員長と付き合うことになった直後のことだった。自他共に認める平凡好きのこの俺が、イケメン代表格のあいつとだ。承諾しておいてなんだが、まだ俺自身信じ切れねえ。
 気分が浮ついていた俺は、本当はそんなこと構いたくもなかったんだが、一応すぐに対応することにした。何せ皆勤十二年目での異例の事態だ。この日最後の授業が自習だからと生徒会室へ向かっていたところを、彼の授業を担当していた教師に呼び止められ、切々と訴えられたのもある。
 保健室と寮監にはすぐに電話で問い合わせたが、どちらにも居ないのだと言う。これまでの実績から鑑みると、どこかで急病になっている可能性もなくはない。俺は風紀委員会にその旨を伝えて、自分でも軽く校内を回ってみることにした。
 授業中の廊下は教室から漏れ聞こえる声やざわめきを除けば随分静かだ。俺はざっと幾つか思い浮かんだ教室などを巡ってみたが、なかなか目当ての生徒には出会わない。代わりにサボりの現行犯を二人ほど見つけ、学年とクラスと名前を控えておいた。後で風紀に絞られろ。
 校舎をひと通り見て回った俺はぶっちゃけ飽きていた。そもそも飽きっぽいのだ、俺は。面倒なこととつまらないことが大嫌いなので、生徒会の業務も勉強も何でも効率的にさっさと済ませないと気が済まない。そんな俺がいつまでも集中して人捜しなど出来るわけがなかった。
「あー、かったりいな……どこ行きやがったんだ」
 ぼやいて、俺は知らず知らずのうちに裏庭へと向かっていた。皆勤賞の主席のことなんて半分放り出している。風紀委員たちも探してるんだからそのうち見つかるだろ。
 昼頃はまだそれほどでもなかったが、午後の二時を回った今はちょうど屋外の何もかもが太陽に暖められ、少し暑いくらいだ。少し傾いた陽射しに照らされぎらぎらと光るベンチを見つけ、何となくそちらへと歩み寄る。あれだ、さっき俺があいつに告白されたベンチ。それを眺めたら、昼のあの出来事がもう少し俺の中で現実味を持つような気がしたからだ。
 陽射しを避けるためにさくさくとよく手入れされた芝生を斜めに横切り、木陰を選んで歩く。そうやってベンチを目指していた俺は、ふとその陰に誰か居ることに気付いて歩みを止めた。
 あのベンチの後ろに横たわっているのは、例の学年主席皆勤賞じゃないだろうか。見たところぐっすり眠り込んでいる。そうか、昼寝のしすぎで寝過ごしたのか。肩の力が抜け、俺はそいつを眺めながらすぐ横にあった樹にもたれかかった。
 どうせあいつが皆勤を逃したのは変わらないのだし、しばらく寝かせておこうかという気になったのだ。毎年学年主席を維持してきただけあって、もしかするとたまたま疲れがたまっていたのかも知れないしな。俺は寛大なんだ。
 とりあえず風紀に連絡を入れようと、ポケットから携帯電話を取り出し顔を上げた俺は、学年主席に近づいて行く人影を見て動きを止めた。



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