7


「コウレキスウと会っただろう。どうだった?」
 普段ならなるべくトールと夕食を共にするのだが、今日は執務が少し長引いてしまった。コウレキスウが皓月宮に来た時の様子は既にライソウハからは大まかな報告を受けており、トールが珍しく緊張した様子だったと聞いていた。
『いい方でした。……少し、緊張しましたが』
「緊張、か。大丈夫だ、すぐに慣れるだろう。慣れないようなら吾に相談するといい」
『はい、コウライギ』
 安心しきって腕の中から見上げてくるトールの額にそっとくちづけた。長くなった髪を手櫛で梳いてやると目を細める。
 全て内に秘めていたことだったが、もしかするとトールは地上の者にはない感性で何か勘づいているのかもしれないな。内心でそう考えながらも、コウライギの手はトールの寝衣をゆっくりとはだけていく。コウライギのものよりは少しひんやりとした体温を掌で暖めるように触れていくと、恥ずかしげに目を伏せたトールが少し身じろいだ。
『あ、あの、コウライギ……』
「苦手ではないか? これからもコウレキスウに教えさせるつもりだが、お前は構わないか」
 素知らぬ顔で問い掛けると、トールは身体をなぞる手を気にしながらこくりと頷いた。
『は、い……っあ、そんな』
 ぴったりと合わせられた太股の間に手を滑り込ませる。そこは一瞬ぎゅっと閉じたが、すぐに力が抜けた。太股にコウライギの手を挟み込んだ状態が恥ずかしかったのだろうが、力が緩めば動きは容易くなる。コウライギは手の中にトールのものを握り込み、ゆるゆると扱いた。
『んっ、んっ……んうっ!』
 トールの頬がうっすらと染まり、腰が僅かに揺れる。先を捏ねるようにしてやると、びくんと跳ねて腰が引けた。
「トール。……吾と離れていた間、自慰はしなかったのか?」
『自慰……?』
 敢えて彼が知らないはずの単語を投げかけると、トールは小首を傾げて訊き返してきた。汚れを知らないような彼の口からそんな言葉が出るのに堪らなく欲情しながら、コウライギはことさら優しげに微笑んだ。
「自分の手で、ここを、こうやって慰めることだ」
『あっ! あ、あ、ふあ……っ』
 きゅっと強めに扱き上げると、切ない声が返ってくる。トールはようやく自慰という言葉の意味を理解したのか、今度こそ真っ赤になって俯き、だがそうすると既にぴんと勃起したものが見えたらしくますます赤くなって顔をコウライギの胸に押しつけてきた。
「ほら、自分でも擦ってみろ」
『やめ、やめてください、コウライギ』
 本人は意図していないのだろうが、腰を捩って逃れようとする動きがいやらしい。話を逸らそうとしているのは明白で、コウライギは手を蠢かせながらほくそ笑んだ。
 最初からそのつもりで持ち込んだ小瓶の蓋を口で開け、中身をたっぷりと手に取る。
「ほら、言ってみろ。ここを自分で慰めたのか? それとも、ここか」
『ふあっ、ぁ』
 言いながら油脂で濡れた指でトールの後ろをなぞる。くるくると円を描くと、くちゅくちゅと音が立ち始めた。トールがコウライギの胸に縋って震えながらふるふると首を横に振る。
『ちが、ち、ちが、触れて、ません、そこには……ぁあ!』
 くっと力をこめると指先が暖かな中に呑み込まれる。その覚えの良さに満足しながら、コウライギはわざとゆっくりと中に差し込んだ指を回した。
「では、ここには触れたのだろう?」
 胸に触れていたトールの手を取り、彼自身のものへと導く。それを握らせるとびくんと身体が震えた。その掌ごと包み込んでぐちゃぐちゃと扱く。先走りが滲み、前からも後ろからも濡れた音が上がった。
 寝台の上で向かい合うようにして横になったまま触れていく。上掛けは掛けたままなので、きっと今の彼らを傍から見れば何をしているかはわからないだろう。いや、トールの顔を見れば一目瞭然か。切なく両目を潤ませ、トールがもぞもぞと身体を捩る。離れようとする腰を引き戻すように、中に押し込んだ指を増やしてぐいと引き寄せると彼の口から堪え切れない嬌声があがった。
『んっ、くうぅ……っ』
 横になっているからか、ぽろりとトールの目から涙が零れた。だが、本人はそんなことにも気づかない様子で唇を開いてか細く喘いでいる。
『も、だめ、コウライギ、もう……』
「まだだ」
 二人の手の中でトールのものがぴくぴくと跳ねている。達してしまいそうな気配に小さく笑い、扱く手を緩める。くぅと喉の奥で鳴いたトールの唇を柔らかく食み、舌先で下唇をなぞると、彼の舌がそっと差し出された。誘われるまま深く唇を重ね、ぐちゅぐちゅと咥内をかき混ぜる。全く同じ動きで指先を中で蠢かせば、トールの黒く輝く瞳が目に見えて蕩けた。
『んぁ、あ、っはあ……』
 ぼんやりと遠くを見て喘ぐトールを仰向けに寝かせ、下履きから取り出したものを扱く。既に充分熱くなっているそれをゆるゆると扱いて見せると、脚を開いたままのトールが惚けたような視線を向けてきた。そんな彼に見せつけるように男根を押し当て、先端でそこを擦る。
「……挿れるからな」
『んっ、うん、ん……』
 ぬるぬると融けた油脂でぬめるところを擦り、少しずつ押し込んでいく。トールのほっそりした身体がそれに合わせてゆっくりと反り、腰を揺らしながら呑み込んでいった。
『あ、拡が、る、あ、コウライギ……ふあ、あ』
 押し拓かれる感覚が堪らないといった様子のトールは既にコウライギの身体に馴染んでいるようだ。それに満足する反面、まだ足りないとも思う。奥までしっかり押し込んだ状態で、両手で彼の腰だけを抱え上げると、途端にびくんと中の襞が収縮した。
『くうっ、あ、ああっ? やめ、コウライギ、それ、それ……っ』
 上半身は寝台に預けたまま下半身を持ち上げられ、深く突き込まれたトールが仰け反った。中がぎゅうっと締まってきついくらいだ。それに構わずぬちゅぬちゅと奥で円を描いて掻き混ぜれば、悲鳴じみた嬌声と共に襞がコウライギのものに絡みついてくる。
「く……っ」
 奥歯を噛んだコウライギに、トールが震える指先を伸ばしてくる。
『こ、コウライギ、くちづけ、してください、あ、あぁっ、は、あっ』
「トール……っ」
『んああっ!』
 持ち上げていた腰を下ろし、代わりに彼の右脚を持ち上げて深く繋がる。のし掛かるようにして唇を重ねると、荒い呼吸と共にくちづけに応えてきた。汗で濡れたトールの黒髪と、垂れ下がったコウライギの金髪が寝台の上で混じり合う。
 息継ぎをさせながら何度も唾液を絡め、唇を甘噛みし、舌を擦り合わせる。トールの中に呑み込まれた男根で少し浅いところでぐりぐりと拡げてやれば、彼の全身が何度も震えた。その間もコウライギの掌はトールのものを揉み込み、先を指先で捏ねている。
『んふっ、ん、ちゅ、んぅ……っあ、あ! ああ……っ!』
 じゅぶじゅぶと抜き差しを繰り返すコウライギに合わせてトールの腰が揺れる。控えめにあがっていた嬌声が高くなっていく。抱え上げていた脚にぐっと力がこもり、とうとう堪えきれずにトールのものが精液を二人の間にぶちまけた。
「……っすまん」
『ひうっ、あ、あ、あっ、は、んんんっ』
 絶頂に達したトールをますます追い上げる動きで男根を捻り込む。全身を硬くしてぎゅうぎゅうと締め上げてくる襞を掻き分け、抉るように押し込めば、トールの両目からぼろぼろと涙が溢れた。
『はひっ、ひっ、ひうぅっ』
 逃げるように仰け反り、寝台の敷布を掴もうとして藻掻くトールの手を掴み、指を絡めて組み敷く。びくん、ともう一度トールの身体が跳ねて、既に逐情した性器から精液がたらたらと垂れた。
「……っ」
 ぐっと一際奥まで押し込み、思い切り放つ。男根の先端が奥に当たり、トールが目を見開いて声もなく唇をわななかせた。
『……! ……!』
「ふ、……っは、あ」
 何度か腰を前後させながら奥に出し切ると、その度に中が痙攣して絞るように締めつけてきた。ようやく射精を終え、なるべくゆっくりと中から引き抜く。その動きにさえ肌を粟立て、トールがか細い声を上げた。可哀相だが、そんな姿もまた、いい。呆然と宙を見上げて唇を震わせる姿に再び兆しそうになるのを堪え、コウライギはトールの傍に横たわってその身体を抱き寄せた。
『ぁ、あ……』
 全身が過敏になっているのだろう、引き寄せるために背中に触れただけでも彼の身体はぴくりと跳ねた。感覚を宥めるために何度も背中をさすってやる。そうするうちに少しは落ち着いたのか、未だに両目を潤ませたままトールがコウライギを見上げてきた。
「大丈夫か、トール」
 問い掛けると、まだはっきり話せないのか、荒い呼吸を繰り返しながらこくりと頷きだけが返ってくる。汗で濡れた髪を撫でつけてやり、コウライギは微笑んだ。
 実のところ、トールはまだ最後までコウライギのものを受け入れられていない。体格差によるものだろうが、何度も褥を共にしていけばそのうち可能になるかも知れないと考えると、まだ楽しみは多い。
 だが、それよりも今は目先の楽しみが優先だ。コウライギは悪戯っぽく目を細め、トールの顔を覗き込んだ。
「先ほど、後ろには触れていないと言ったな。なら、やはり自慰はしたのだろう?」
 それから、耳許に息を吹き込むようにして優しく囁きかける。
「……誰を想ってしたのか、教えてくれないか、トール」
 途端に、ようやく落ち着き始めていた呼吸を止めて真っ赤になったトールを逃がさないように抱き込みながら、コウライギはしばらくこの話題で彼をからかうことを決めていた。


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