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 カーテンに向かって押されて、顔から突っ込む。視界が真っ白になって驚く間もなく俺はベッドに着地した。
 と言っても、あわやベッドからも転がり落ちるところだった。反射的にベッドの端を掴んだ手で身体を支える。
「え、なに」
 ばさ、と誰かが俺からカーテンを引き剥がして背後からのしかかってきた。誰かって当然白金しか居ないけど。驚いて振り返ろうとする俺の上半身をがっちり抑えつける白金の腕が案外強いことにまた驚く。何となくそんなイメージがなかったから。
「何でもするって、言っただろ」
 耳元で笑いながら言われる。ちょっと息がかかって背中がぶるりと震えた。そのままぐっと体重をかけられると重くて、ベッドに崩れ落ちる。
 今まで小さくて可愛いかんじの男の子としかスキンシップすらしたこともなかったけど、成人男性って重い。貴也の体重って何キロだろ。筋肉ついてるし重そう。
「んー、何して欲しいのか言ってくれないと、何もできないよ?」
 四つん這いの状態で抑えつけられてる俺にどうしろって言いたいのかわからない。困惑を露わにすると、背後から俺の顔を覗き込んできた。
「伊都ってタチだっけ」
「うん、まあそんなかんじ」
 絶対有り得ないけど万が一貴也が俺とセックスすることになって仮に貴也がタチがいいって言ったら俺はネコになるよ。そんな可能性絶対ないけど。
 俺の妄想を説明するのも面倒だから適当に返事をする。そうなんだ、と白金が笑って、俺の首筋を舐めた。
「ん」
 びっくりした。え、なに。
「ネコやったことは?」
「ないよ?」
 何だろうこれ。話の流れ的に白金は俺とやりたいって捉えられるんだけど。え、ネコなんかやりたくないんだけど。
 今更のように抵抗しようと身体を捩る。膝を立てている状態ならともかく、うつ伏せになった背中に体重をかけて乗られているとうまく動けない。重い。痩せて見える癖に何この重さ。十センチやそこらの身長差でこんなに体重って変わるものだっけ。
「え、やなんだけど」
 出来る限り首をひねって率直に言う。今まで親衛隊の子としか寝たことがなかったし、みんな俺がやだって言ったことはすぐやめてくれた。だけど、白金はクスクス笑うばかりでどいてくれない。体温と笑いの振動が伝わってくる。
「ふーん、青山の連絡先くらいは持ってるのか」
「勝手に携帯見るのやめてくれる」
 いつの間にかポケットにあったはずの携帯電話の重みがなくなっている。服の上から脇腹を撫でられて、ちょっと嫌な気持ちになった。貴也にもう誰とも寝るなって言われてるんだよね。貴也の意思に反することはしたくない。
「白金せんせー、どいてってば」
 顔をしかめて嫌がると、白金がぺろりと俺の耳を舐めながら囁きかけてきた。膝が俺の脚の間に入り込んでくる。
「青山の個人情報が見たいんじゃねえの?」
「見たい」
「じゃ黙って言うこときいたら」
「それって究極の選択なんだけどぉ……んうっ!」
 膝でぐりぐり尻の間を圧されると変な声が出た。ちょっとほんとに勘弁して欲しい。でも貴也の個人情報……。
 俺は男だし、貞操とかそんなことは考えてすらいないから、まあぶっちゃけちょっとくらい我慢してやられてもいいかなとは思う。白金と貴也の身長ってかなり近いように見えるから、それっぽい想像で我慢できそうだし。でも、貴也に止められてることをするなんて俺にはできそうにない。黙っていればいいんだろうけど。
 その間も白金の手は俺の襟元に触れて、緩く垂れ下がっているだけのネクタイを緩めてしまう。ぷつぷつとボタンを外されて、手が直接肌に触れてくる。
「ほら、早く決めろ、伊都」
「どうしよう……」
「どうもこうもねえよ」
 どちらにしても俺の中でどっちがより納得がいくかの問題だ。途方に暮れてぽつりと呟いた声に、予想外の返答があった。
「え」
「うわっ!」
 ジャッ、と勢いよくカーテンが引かれる。白金がベッドから転がり落ちて、俺の背中が急に軽くなった。
「貴也……」
 身体をベッドの上で反転させると、貴也がすぐ横から俺を見下ろしていた。貴也だ。本物が目の前にいる。走ってきたのだろうか、肩と胸が少し荒く上下している。あ、息が乱れてるのエロい。ヤバい。ちょっと勃った。ていうかちょっとどころじゃない。すごい勃った。


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