6


 意味がわからん。わからんが、さっきから和泉のニヤニヤ笑いが妙に危険に思えてならない。俺は表情を取り繕うことを放棄し、和泉の胸を押した。
「とにかく降ろしてくださ……ひっ!」
 ぐっと尻を掴まれ、ぞわぞわしたものが腰から駆け上がる。背筋を硬直させた俺に顔を寄せ、和泉が囁いた。
「で? 駒場とは寝たのか?」
 近い、近いんだよてめえ! 和泉の唇は俺の口ぎりぎりまで寄せられ、言葉と共に吐息が触れていく。
「ね、て、ませっ、んぅ……っ!」
 ぐいぐいとケツを揉まれ、俺の声は半分くぐもったものになる。渾身の力で押し返そうとしていた力が妙な抜け方をして、俺は和泉の胸に顔を突っ込んでしまった。
「へえ。可愛いもんじゃねえの。まさか童貞?」
 そうだよ榊原晃人の身体は清いんだよ! 一生清いつもりなんだよ! 操立てって言葉知ってるかこの若造め!
「で、ついでに処女かな」
「やっ、ひぃっ、うっ!」
 野郎に処女もクソもあるかあああ!
 恥も外聞もなく上げようとした怒声は、和泉が俺を乗せたままの膝を股の間で無理矢理組んだことで変な声になった。野郎のやが不自然に切れたせいで、やっ、とか言わされたことへの屈辱で顔が真っ赤になる。
 しかも和泉はズボン越しにぐいぐいと俺の股間を押し上げてくる。奴の胸に顔を押し当てた前傾姿勢になっているせいで、体重がそこにかかって股間が、つうか俺の息子が圧迫されてるんだよ! 即刻やめろこの変態教師!
「やめっ……ひあっ、あっ」
 和泉はわざわざ俺の顔を覗き込み、真っ赤になった俺が唇を震わせるのを鑑賞しながら妙にリズミカルに膝を突き上げ続けた。片手は俺の背中を抑えつけ、もう一方の手は俺のケツを鷲掴みにしてぐにぐに揉んでいる。和泉が突き上げる度に股間が圧され、俺は情けない声を上げて身悶えた。
「っふ、う」
 和泉の長めの髪がさらりと俺の額に触れる。ごく近くから見られていることを実感して、羞恥に唇を噛んだ。
 言っておくが俺の身体は清い。もっと幼いガキの頃から、身体どころか誰にも唇すら許したことはなかった。更に言うと自慰にも興味はない。
 つまり、俺は今この変態教師にこんな真似をされて初めて、俺自身の身体が実はかなり敏感な方だと思い知らされている。
「い、嫌で、すっ、やめ、あ、あうっ」
「あーあーこんな程度で勃っちゃって。若いねー、榊原」
「くぅっ……」
 笑いながら指摘され、俺は恥ずかしさのあまり言葉を失った。すかさずぐいっと膝で刺激され、俺の腰が震える。
「う、あ、ああっ」
 今や抵抗しようとして榊原の胸を押していた両手からはすっかり力が抜け、奴のシャツを掴んでいるだけだ。呼吸は荒く、必死で顔を背けてもすぐにまた覗き込まれる。そのまま俺のそこに押し当てた膝をぐりぐり左右に圧されると、もう駄目だった。
「あっ、あっ、ああーっ!」
 いった。いっちまった。俺は唇の端から涎を垂らして射精した。びくっびくっと腰が跳ねる。下着の中はぐしゃぐしゃだ。
 涙が滲み出そうになるのを堪え、俺は肩を震わせて未だに荒い呼吸を繰り返す。呆然とする俺の耳に和泉のクスクス笑いが落ちてくる。
「ふふっ、イッちまったな、榊原」
「……っ!」
 ぺろり、と和泉の舌が俺の顎を伝った唾液を舐めた。その感触に我に返り、俺は力いっぱい奴の身体を押した。何とか床に転がり落ちることだけは阻止して、俺は精一杯和泉から距離を取る。靴の下で床に散らばったプリントがぐしゃりと音を立てた。
「な……なっ……!」
 こんな屈辱、初めてだ。怒りのあまり声すらうまく出せずに拳をわなわな震わせる。
「んー? 先生にでも言いつけてやるって? ちょーっとからかったらお前があっさり一人でイッたのに?」
「……で、……さい」
「ん?」
「死んでくださいっ!」
 怒りと恥ずかしさによる混乱の極みで、俺はそれだけ叫んで準備室を飛び出した。後ろから和泉の爆笑が聞こえてきたが、もうそんなことどうでもいい。こんな時まで言葉遣いが崩れないのも悔しいが構ってられるか。死ね! 変態教師は死ね! ちんこが腐ってもげて死ねえええ!


Prev | Next

Novel Top

Back to Index