第二話 最初から死亡フラグ
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 俺はもしかすると馬鹿なのかも知れない。
 入学式を終えてぞろぞろと教室に向かって移動しながら、俺は内心で打ちひしがれていた。うざい女どもから解放されて勉学に励み……たいほど勉強が好きなわけではないが、とにかく心穏やかに過ごしたいと考えていた俺の目論見はとうに砕け散っている。ガラスのハートが粉々だ。
 俺の周囲ではケツの青い高校一年生どもがきゃいきゃい言いながらとにかく先程登壇していた生徒会の面々について話しまくっている。芸能人かよ。
 男子校ってこんなだったか。前世ではごく普通の公立の高校に通っていた俺は共学しか経験がない。だが、共学にいた女どもだってこんなに騒々しくはなかったはずだ。エスカレータ式だからこその独特の風潮なんだろうか。
「君、外部生?」
 肩をぽんと叩かれて振り返ると、何やら腹に一物ありそうな男が居た。
「そうですが、何か」
 反射的にいつもの口調で返してから、そういえばこの学院での方向性について決めかねていたことを思い出す。まあいい、素で対応してもトラブルを招きかねない。榊原晃人は静かに暮らしたいんだ。
「俺は中野始(なかのはじめ)。クラス分けを確認してたら見たことのない名前があったから、君かなと思って」
「ああ、なるほど。僕は榊原晃人です。同じクラスですか?」
「そうそう。同じAクラスのよしみで仲良くして欲しいな」
 にこやかに笑う中野は悪い奴でもなさそうだ。まあ今のところは。俺も微笑を浮かべて頷いた。
「よろしくお願いします。この学院のことは概要くらいしか知らないので、色々教えていただけると助かります」
 入学してしまったからにはさっさとここに慣れなければならないが、そのためにはガイド役も必要だろう。とにかく今は解説が欲しい。先程の生徒たちの発狂ぶりについてとかな。
 内心でそんなことを考えているのが、おそらくだいぶソフトなニュアンスで伝わったのだろう。教室の手前で立ち止まった中野が、少し居心地悪そうに苦笑した。
「さっきは驚いたと思うけど……」
「生徒会、ですよね」
「うん。あ、この後オリエンテーションがあるから、昼休みにでも詳しく説明するよ。もう誰かと約束してたりする?」
 ほう、案外気が回るじゃないか。ガイド役は中野で決定だな。
「いえ、特に誰とも」
「じゃあ昼休みにね」
 はい、と返事を返して俺たちは教室に入った。
 それぞれの席には今年一年間使用する教科書類が置かれ、名前順に札がついている。榊原の名前はちょうど教壇のすぐ前、居眠りできない代わりに素行さえ良ければ教師の覚えめでたくなりやすい席にあった。
 幸先はまずまずだが、先程の異様な生徒会紹介を思い返せばプラスマイナスゼロである。


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