望んだものは水の泡 1
「あっ……はあっ、あ、あぁ」
身体が揺さぶられる。目を閉じたままそうしていると、どこが上でどこが下なのかも段々曖昧になってくる。吐き出す吐息は熱いのに、頭は冷水を浴びせかけられたように冷え切っていた。何より、身体の中を犯す熱いものが不快で、不愉快で、吐き気とともに脂汗が浮かぶ。
「んぅ、うっ、うあ、あ」
後ろから腰を振られる度に、男のペニスを飲み込んだそこがぐちゅぐちゅと音を立てるのが気持ち悪い。ぞわぞわと背筋を寒気が走り抜け、腕や太股にざっと鳥肌が立つのを止められない。
「はっ……そんなに嫌か」
「っ……」
背中にそんな言葉を落とされて、咄嗟に頷きたくなる。やめてくれ。今すぐにでも、やめて欲しい。そう叫び出したいのに、俺は黙って首を横に振った。途端、ぐっと深く突き上げられ、思わず悲鳴が漏れる。
「ぁ、あああ……っ!」
それでも必死になって目を閉じ、俺は与えられる全ての感覚から逃れようとベッドの上で身体を丸める。そうやって前に逃げた腰を掴まれ、ぐいと持ち上げられる。
「ひっ……」
粘着質な音を立てながら、熱いペニスが体内を掻き回す。押し拡げる動きに喉が引き攣る。俺以外の熱い呼吸。ぐじゅっ、ぐぽっと鳴る酷い音が架空のものであればいいのにと、俺は半ば朦朧となりながら願う。
だが、わかっている。本当にいいのか、と問いかけられて、頷いたのは自分だ。彼のためにこうしようと決めた、それを実行しているだけ。それだけだ。
「んあっ、あ、あっ、はあっ、はひっ」
緩急をつけて内部を擦り上げられ、そこがひくひくと収縮を繰り返すのが自分でもわかる。堪えようにも奥を突かれる度に声が押し出され、まるで快楽に咽び泣いているように聞こえる。
「うぐっ、うぅっ、ん、んううっ」
顔を押し付けたシーツは既に涙と涎でぐちゃぐちゃだ。俺は閉じた両目からぼろぼろと涙をこぼしながら、ひたすらあいつのことを考えた。同じ生徒会の会計をしている、あいつのことだ。金に近い茶色に髪を染めていて、幾つもピアスをあけ、いつでも制服のボタンを少なくとも三つは開けている、あの男。何かと理由をつけて生徒会をサボろうとする癖に、俺が少しでも残って仕事をしていると必ず手伝おうかと声をかけてくれる。実家からの重圧に落ち込んでいる俺の隣に座って、いつまでも黙って傍にいてくれる、あいつが言ったから。処女とは寝ないんだよね、責任取れないし。そう言っていた、だから。
「ったく、余裕ぶってんじゃ、ねぇよっ」
「あ、ああっ!」
興奮しきれずに半勃ちのままだったペニスを掴まれ、強く扱きあげられる。直接与えられた刺激に悲鳴じみた声があがる。たっぷりと中に流し込まれたローションが突かれるごとにじゅぷじゅぷと音を立てて溢れ、それが会陰と陰嚢を伝って垂れている。そうやって溢れたローションごと扱かれる感触に腰が震える。ぎゅっと内部が収縮し、そこを激しく押し拡げられて更に痙攣する。
「ひぁっ……や、やめ、ぁ、んあぁっ!」
思わず制止しようと振り返る、その動きを利用して身体を倒された。中を捻るように刺激されて背中が仰け反る。びくん、と跳ねる脚を腕に抱えられて横から小刻みに突かれる。
「はっ……」
「あひっ、ぃっ、ひっ、あぐっ」
持ち上げられていない方の脚をもがかせるが、シーツの上を滑るばかりで逃げ場がない。歯を食いしばり、両腕で顔を隠そうとするが、その腕を更に強い力で押さえつけられる。より一層深くを抉られて身体がびくつく。ぽたり、頬に落ちた水滴にはっと目を見開いた瞬間、噛みつくように口づけられた。
「んぐっ! ん、んうっ!」
首を振って逃れようとするが、勢いを増して抽送されるとそれだけで身体が言うことを聞かなくなった。痛みなんてとうにない。粘膜を擦り上げられているだけなのに、それに思考が埋め尽くされる。ぞわぞわと全身を這うものが快感であることをはっきりと自覚して、俺は涙をこぼしながら全身を硬直させた。ぶちゅぶちゅ扱かれ続けるペニスは既にはちきれそうになっていて、先端から体液をたらたらと零しているのが自分でもわかる。
「ふううっ、んっ、んんんん!」
一瞬意識が遠のいたような気がして、次の瞬間俺は唇を塞がれたまま勢い良く射精し、全身を痙攣させていた。
「んひっ、ひぃっ! ひゃめ、まっ、待っ……」
律動が止まっていたのはごく僅かで、すぐに内部をペニスが抉り始める。余韻どころではなく、絶頂の感覚がまざまざと残るそこに与えられる刺激は暴力的で、呼吸すらままならない。びくんと跳ねる脚が宙を蹴る。何とか逃れようとうつ伏せになったところを思い切り引き上げられ、男のペニスの上に身体が落とされた。
「あっ、あーっ! ああぁっ!」
後腔が酷くうねり、咥えこんだものの形をまざまざと感じて俺は身体を跳ねさせた。深く奥まで押し入ってくるそれに恐怖すら覚え、強く締め付けてしまう。背後で男が笑い、その吐息が首筋に触れる。
「やめっ、も、もうやめ、ろっ……ぁあ!」
「俺はまだ、だっ」
自分の下にある男の腰を両手で突っぱね、出来る限り挿入を浅くしようともがくが、腕を取られた弾みにより深いところまで呑み込んでしまう。犬のように舌を出して喘ぐ。唇の端から唾液がだらしなく垂れて再び勃起を始めた俺自身のペニスに落ちていく。その間も下から突き上げられ擦られて中の襞がひとつひとつ肉の塊に絡みついて快楽に震える。
限界が近いのか、俺の中でペニスがビクビクと跳ねる。それにすら快感を覚えて、俺は咽び泣いた。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ちいいのが、気持ち悪い。
「く……っ」
「ふっ、ううっ、う、うんんっ……」
中にじわりと広がるものを感じて言葉を失う。ずるり、引き抜かれる感触に俺は漏らすように射精していた。
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