目撃はベンチの後ろで
前編


 えー、むかしむかし……じゃないけど、あるところに、良家の子息たちが集まる全寮制の名門学園がありました。その学園の俺様生徒会長は、抱かれたいランキングぶっちぎり一位の端正な容姿、誰もが認める家柄、そして学年主席の頭脳と運動部に負けない運動神経を持っていました。しかし、生徒会長にはたったひとつ、大きな欠点があったのです。
 生徒会長の好みは、平凡顔でした。美人系でも可愛い系でもなく、平凡。十人いれば十人の中に、大衆がいれば大衆の中に紛れ込んで誰だかわからなくなるような、特に何の特徴もないようなごくごく平凡な顔。それが、誰もが憧れる会長様の心にズギュンとくるタイプだったのでした。
 そもそも、有名な美形一族に生まれたことが悲劇の始まりでした。彼は幼い頃から寝ても醒めても美形に囲まれ続け、長じてからも様々な美形にアプローチされ続けました。そうするうちに、いつしか生徒会長は美形に慣れすぎて、審美眼がおかしくなってしまっていたのです……ってことだと、噂に聞いた。まあ学園内では有名な話だ。
「つうかよ、お前の好みってマジで面倒くせえな。ちょーっとでも可愛い系や美人系にぶれるとダメで、誰が見ても『あ、普通』としか思われないタイプがいいんだろ?」
「うるさい黙れ」
 暑くもなければ寒くもない今の時季は昼寝をするには最適で、まあ強いて言うなら日差しがちょっと強いくらいだろうか。昨夜やっと届いた新作のゲームに熱中しすぎて寝不足の俺は、日に当たりすぎるベンチの後ろ、木陰にごろんと横になってうとうとしていたところだった。正直寝不足が酷すぎて休みたいところだったが、これでも俺は皆勤賞の常連なのだ。
 聞こえてきた話し声に薄目を開けて見てみると、ベンチに座っていたのは生徒会長と風紀委員長だった。相変わらず会長はため息の出そうな理知的イケメンだし、風紀委員長は視線が合うだけでビビってしまいそうなワイルド系イケメンだ。日差しが直で当たっていることもあって、そこのベンチだけ何だかやたら眩しい。
 とにかくレアな取り合わせだなと感心する俺の前で、風紀委員長が音を立ててコーヒー牛乳を飲みながら、うなだれる会長を横目に眺めていた。ちょうど彼らの背後に居る俺は、気づかれてはいないようだ。
「あー、これで何人目だっけな。十四連敗か」
「黙れっつってんだろ! あと十三連敗だ勝手に増やすな!」
「キリ良く二十までいったらメシ奢ってやるよ。飲みもんとデザートは自腹な」
「奢って貰うまでもなくメシには不自由してねえよ!」
 風紀委員長の方を向いてムキになっている会長は若干涙目だ。さっさとこの場を離れれば良かったものを、彼らが何ともいえない話題を始めてしまったために俺も出て行くタイミングを逃してしまった。仕方がないから狸寝入りを決め込むか。会長が遊ばれてるのなんて滅多に見られないしな。
「そりゃあ容姿端麗頭脳明晰泰然自若文武両道晴耕雨読快眠快便性格凶暴な生徒会長様が、告白する度ゴメンナサイ即決で十三連敗してんだぜ? 面白すぎるだろ」
「……おい。快眠快便は微妙な線だが性格凶暴ったあどういうことだ、よッ!」
「文字通り凶暴だろ、っぶねえなオイ」
 風紀委員長の言い様に思わず吹き出しそうになって必死で堪える。そっと目を開けると会長が風紀委員長を殴りつけようとして、その拳を軽々かわされているところだった。そうか、会長は快眠快便なのか。
「最近は呼び出した瞬間にゴメンナサイされてんだろ」
「何故そのことを知って……てめえええ!」
 会長が懲りずに殴りかかる。ぱし、と風紀委員長がその手を受け止める。会長がもう片方の手を振り上げる。風紀委員長がまたそれを受け止める。そのまま風紀委員長が挙がったままの会長の両腕をグググと下ろしていく。
 会長の腕がぶるぶる震えて見えるのは、よほど力を入れているのだろう。対する風紀委員長は余裕そうだ。しかし彼らは気づいているのだろうか、そうしているとまるでお互いに手と手を取り合って見つめ合っているようにしか見えないってことに。


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