I Don't Want to Fall in Love
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ごめん、理一。俺は理一のこと、そういう目で見られない。他人を傷つけてまで俺に良くしてくれても、俺は嬉しくなかった。俺のためにあんたを慕ってる奴らを切り捨ててくれたって全然喜べなかった。今までそうされて、何も言えなかった俺にも責任はある。でも、もう黙っているのはやめた。あいつのお陰で勇気を持てたんだ。理一、あんたに恨まれても仕方ないけど、はっきり言うよ。あんたは傲慢だ。もっと他人の気持ちを思いやってくれ。周りに優しくしろよ。あんたを慕ってる奴らはあんなにいるだろ。そういう奴らのこと、もっと考えてやれよ。頼む、理一。俺、あんたといい友達になりたい。 俺に向かってメイがはっきりと言う。今まで、メイがここまで厳しいことを言ったことはなかった。俺が何をしても困ったように曖昧に微笑む姿はもうなかった。もう、メイは俺のものにならない。それをはっきりと思い知らされた。 これは、夢だ。学園祭の後、俺以外の奴と恋人同士になったメイを呼び出して、返事を求めた時の夢だ。そう悟って、俺はぼろぼろ涙をこぼしてメイに縋った。現実では見栄を張って物分かりよく頷いて見せたけど、夢だとわかったらもう我慢できなかった。 いやだ。友達なんて嫌だ、メイ。俺はお前が好きなんだ。傲慢だって言うなら直すから、何でもするから、メイ、頼む、友達だなんて言わないでくれ。 「っ、メイ……!」 しゃくりあげた拍子に目が覚めた。 辺りは薄暗く、闇に慣れていない目では何も見えない。遠くの方に少し光が射していて、夜明けが近いらしいことはわかった。 どうやら泣きながらすっかり眠ってしまっていたようだった。長い時間椅子の上で丸くなっていたせいか、身体が痛い。俺は涙を拭うことすらせず、痺れたようになっている脚をそっと床に下ろした。足元にローファーを脱いだはずだが、つま先で探っても探っても見当たらない。 怪訝に思って足元を覗き込もうとした時、誰かがやってくる気配がした。ぱっと灯りがこちらへ向けられ、眩しさに思わず顔を背ける。 『何奴!』 「……は?」 厳しい声の内容は、聞いたことのない音だった。何か聞き間違えたのだろうか。成人男性の声だったが、警備員かもしれない。恐らく、生徒会室で一夜を過ごした俺を叱責しているのだろう。灯りはまだ俺の顔へ向けられていて、そちらを見ることができない。 「すまない、すぐ部屋へ戻る」 そう返して、俺は今度こそ足元に靴がないか探そうとした。くそ、さっきから俺の顔を照らすのをやめさせたい。眩しくて何も見えやしない。そう思ったが、俺は自分の傲慢さを反省したばかりで、例え相手が警備員であろうと強気に出ることは躊躇われた。 『何を言っている。誰か! 誰かある!』 警備員が大声で叫んだのを聞いて、今度こそ俺は固まった。こいつ、今何て言ったんだ? 全く理解できなかったし、聞いたこともない言語としか思えない。 「あんた、今、何て……」 問い掛けたのとほとんど同時に、複数の足音がバタバタと近づいてきた。パッと部屋の明かりがつく。眩しさに目を閉じた俺は、次の瞬間床へと突き倒されていた。 「ぐっ……!」 驚く間もなく、誰かが俺の背中に乗った。後ろ手に腕を捻り上げられ、痛みに呻く。俺は犯罪者のように取り押さえられていた。あっという間だった。 「な、にを……」 『貴様、何者だ。どこからここへ侵入した』 頭上から声が降ってくる。やはり、聞いたこともない言葉だ。何が起こっているのか混乱しているというのに、俺に跨がった奴が髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。 「いっ、て、ぇ……!」 痛みに呻きながらも、ようやく目が明るさに慣れてきたようだ。ただでさえ涙目になって滲んでいた視界に、有り得ない服装の男が映った。瞬きをした弾みで涙がぼろりと零れ、視界が一気に明瞭になる。 「……平安時代?」 やたら背が高く、体格なんかは俺より一回りはでかい、髪を紫色に染めた変な男。俺の目の前に立つそいつは、平安時代なんかによくある直衣を身につけていた。 |
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